インスタントのコーヒーを作ってソファでいつものようにくつろいでいた。香港行きを予定から無くしたため、空港に向かうはずもなく、呑気に1日を始めようとしている。
この場所に居れるのであれば、居たほうがいいだろう。そろそろ1週間が経つが、食べておきたいものはまだ沢山残っていた。陳さんとの日常生活も型についてきた。居心地の良さというものに素直に身を委ねる他無いと今の自分は考えているのだ。
部屋に置かれたままのバックパック。再び背負う日は、まだしばらく先になりそうだ。バックパックから余分と思われる荷物を日本へと送り返す。20kgという重量は気軽には運ぼうと思えない。15kg前後まで彼の重量を落としてやりたい。家にあった段ボールに荷物をまとめ、郵便局で国際宅急便の手配を行なった。
空高くから降り注ぐ日差しと、あふれてくるサラリーマンの姿を見る。もう昼時なのだ。
昼食通りにある惣菜ボックスの店。前回訪れた時も、ここはよく人が並んでいた。列に加わり、やってくる自分の順番を待つ。前の客の様子を観察しながら、注文の仕方を勉強する。ここは惣菜が4つも選べるらしい。メインとなる肉は皆会計時に頼んでいた。まずは惣菜を4つ注文できればいいのだ。
「何がいい?」と惣菜担当の店員が聞く。
「这个(zhège)、、」と青菜の炒めを指さす。
「、、这个(zhège)、、」とニラと砂肝の炒め。
気になった惣菜を指さしで注文すれば、何も不便はない。前の客がフライドチキンのような大きな肉を貰っていた。気になってしまい同じものを選ぶと、会計は120元だった。
席について、セルフサービスの汁物をよそる。フライドチキンに全く不満はないが、1食50-70元に収めておきたいと思っていたところ、贅沢な食事になってしまった。手書きのメニューには90元と書かれている項目もある。安く済ませることもできそうだった。ただこの場所はやはり良いと、改めて自分の勘を静かに讃えた。
食後は近くの公園ベンチでひと息つく。まるで景色の一部になったような気分だ。
静かに佇んでいると何やらじっと見つめてくる男がいる。
「Hi, なんだい」とにこやかに声をかけた。
彼は何も言わず、ただ隣に座る。突然彼が薄笑いを浮かべ、顔を近づけてきた瞬間
「おい、なんだって!」と叫び、立ち上がった。彼は何の反応も見せない。
気味が悪くなって、その場を去った。いったい、彼は何だったんだ、せめて一言くらい発してくれれば、理解できる隙間が見つかるというのに。台湾ということもあり警戒することもなく日々を過ごしていた。ああ、そうだ、私は異国にいるんだと気がついた。
雲の動きに目を泳がせて、鳥の声に耳を傾ける。そんなことができるようになったものだから、いつの間にか自分が異国にいるという感覚を失っていた。すでに微かな醤油も香味料の匂いもこの街から感じることができなくなっていた。
空が暗くなり始めると、中正紀念堂に寄って夕焼け空を見た。街の明かりが主役になる頃には、学校帰りの学生たちがコンサートホールに集まって、おしゃべりやダンス練習に精を出している。
帰宅すると、部屋着に着替え、ソファにてくつろぐ陳さんがいる。英語ではSuger appleと言う、シェッキャーという果物をいただいた。お釈迦さまの頭のような形をしている果物だ。桃のように柔らかく白い果肉は、日本では食べたことのない濃厚な甘さで思わず顔がほころんだ。
231019 Taipei Taiwan

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