目を覚ますと、勉強机に置かれた薄青いプラスチックの置き時計は7時を指していた。陳さんにおはようと伝え、オートミールとごま、ココアを混ぜ合わせお湯に溶いたものとパンを朝食にとった。陳さんが日頃食べているものを真似して食べている。
いってきますと言って陳さんが家を出た。いってらっしゃいと私は返した。静かに私の1日が始まった。
中山を通り抜けて、北門へと向かった。牛肉麺のお店を最後に食べておきたい。11時と早めの時間だが、すでに観光客やオフィス勤めの人たちで席が埋まり始めていた。中年の女性店員に注文を伝え、空いている席につく。しばらくすると、店員が注文の品を持ち、店内を見回しながら声をかける。手を上げて私だと主張した。醤油と八角などで煮込まれた牛肉の乗った牛肉麺が目の前に置かれる。プラスチック容器から高菜と薬味を好みでのせ、割り箸を手に取った。
前回食べた時から、ここのスープに魅了されていた。次はいつこの牛肉麺を食べられるだろうかと考えながら、大切に味わった。どんどんと客は店内に入って、空く席を探している。一息する暇もなく、店を出ることにした。満腹になったお腹をさすりながら、道を渡って店を振り返る。牛肉麺と大きく描かれた赤の看板に陽が差していた。
南へと降りて、足を運べていなかった博物館を目指した。そばまでやって来たが、見つからないこともある。そんな時はスマホに頼って、目的地の国立台湾博物館南門館に辿り着いた。古くはアヘン製造に使用されていた工場で、その赤煉瓦の二階建ての建物は、博物館として日本統治時代の歴史を垣間見ることができる。
歩き疲れた。いつもよりも早い時間から図書館にやってきては、気ままに過ごすことにした。まだ人のまばらな図書館。席についてから、眠気に負けて30分ほど船を漕いでいた。紙の捲れる軽く柔らかさを含んだ音が静かに聞こえてきた。夕方になると、学生が学校終わりによくやって来て、私はその頃になると中正紀念堂へ向かった。いつもの道順だ。
今日は特に空が綺麗に映る気がした。ここで見る最後の夕焼け空になるからだろうか。着いた頃には、ちょうど衛兵交代式の行われる時刻で、現物客が紀念堂内に集まっていた。兵隊の動きに合わせて軍服の擦れる音が鳴った。革靴と大理石の床が響きのいい音を立てる。たまたま空いた前列に入り込んで、彼らの交代式を間近で見た。歩幅を合わせ、足を高く上げて一定のリズムを刻みながら進む兵隊が、目の前を通り過ぎて退出する。〆ったと無意識に感じた。
紀念堂を出ると日の入りが進んでオレンジに色付いた西の空が広がっていた。街のシルエットを切り絵のようにはっきりと映して、光が放射線状に我々の方に伸びていた。中正紀念堂は夕方にやってくるのに限る。長らくお世話になったものだ。いってきますと心の中で呟いて、家に帰った。
夜には、中山で買っておいた台湾のクラフトビールを陳さんと飲んだ。2人とも楽しみにしていたが、捨ててしまうくらい美味しくなかった。結局、いつもの玉山を飲むことに落ち着いた。純度の高いアルコールが喉元を通る。陳さんとの夕食も明日で最後だ。もう一杯飲みますか?と薄く頬が赤みがかった陳さんが聞いた。
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