Notes photos and somethin bout this Big Circle

231113 Yogyakarta Indonesia

朝起きるのは、決まって7時半ごろ。アビーが昨日買ってきてくれた菓子パンを共有のリビングルームで頬張りながら、レンタルバイクを待つ。玄関からバイクの音が聞こえた、時計を見ると8時半だ。業者の男がする軽いATバイクの説明を受け、日本の運転免許証と国際免許を渡して、貸し出しの承諾をする。140,000ルピアで2日間のレンタル、悪くない値段だ。行こうとしているお寺も朝早くから開いているようだ。気分も随分と高まっているので、急いで出発の準備をした。エンジンをかけて、バイクを走らせる。目的地はボロブドゥール寺院、1991年に世界文化遺産に登録された世界最大級の仏教遺跡だ。

朝早くからバイクが群れとなって、このジョグジャカルタの街を行き交っている。左右を確認して、車線に合流する。実は人生で初めてバイクを運転するのがこの地。アクセルのひねりが具合が未だ慣れない、急に回しすぎると身体が後方へと傾く。おっとと。すでに日差しは強く、信号待ちの停止中は特にじりじりと半ズボンから覗く肌が焼けているのを感じる。台北では眺めていたこのバイクの群れに、私が一部となって流れている。何だこの高揚感は。

運転しながら、ジョグジャカルタのバイクルールを学ぶ。停止時のバランスの取り方や、陽が射しているから見にくい信号の表記。徐々に彼らの一部になっていることを身体に馴染ませてゆく。前を向いてミラーを確認していれば事故にはならないと解ると、どんどんと気分も速度も上がっていった。好きなように駆け抜けて、道を間違える。配送トラックの横をすり抜けて、排気ガスに全身丸々と包まれる。空気中に舞っているチリが顔に当たる。私は満面の笑みを浮かべて走っている。

あっという間に目的地、ボロブドゥール寺院にやってきた。隣接するパーキングにバイクを停め、係員に挨拶をすると「残念ながら今日はクリーニングの日だから、奥のエリアまで入れないんだ」と教えてくれる。それなのにチケット代は変わらないから、エントランスゲートで腰に手を当てながら、しばらく考えた。せっかく来たが、今日はやめておこうか。すぐにパーキングに戻り、ゲートを出ると代金の5,000ルピアは回収された。5,000ルピアのために、ここまでバイクを走らせたことになる。

近くにあったギャラリーにも訪れたが、入場券が100,000ルピアと高額で入場せずに退出することにした。そんな大金を払う余裕は私にはない。

結局、ジョグジャカルタ中心部に戻って、昼食を取ろうと帰ることにする。新たな交通手段を手に入れ、気分が上がっていたところ、目的が何も果たせないまま、なんだがやるせない気持ちになった。お腹も減っているのか、如何せん不機嫌だ。

昨日も通ったコーヒーショップの店員は今日も変わらず若い青年で、覚えてくれたのか昨日よりも親近感のある挨拶をお互いにできた。昨日と同じ入口付近の椅子に座る。10,000ルピアでこんな美味いコーヒーが飲めるのかと思うと、先ほどの不機嫌は吹き飛んで幸せになれた。昨日よりも人が多いなとあたりの客を眺めていると、向かいの2人掛けテーブルに座っていた男が興味深そうに私を見ている。「Where are you from?」声をかけられた。

「日本だよ」彼の目が輝いた。「何でジョグジャにいるんだ」と話し始めた。そしたら「昼食は食べたか。おすすめがあるから、良かったら一緒に行かないか。Mi Ayamの美味いお店があるんだ」と笑顔で誘ってくれる。彼の名前はバユ。歳は同じくらいだろう。彼の眼を見る限り、怪しい男には見えないので、気ままに着いて行くことにした。店からすぐオレンジ色の壁と半野外のMi Ayamのお店。2人並んでバイクを停めて、慣れた様子でバユが店主の女性に注文をする。店に入ると、タイミングを合わせたように土砂降りの雨が降ってきた。バケツを放ったように、バチバチバチと大粒の雨が地面に叩きつけられる。おっと驚いてお互い顔を見合わせた。

Mi Ayamは肉と青菜の入った小さめなラーメンのような料理。食べろ、食べろと彼は嬉しそうにしている。確かに美味い。ついに、天井のトタンからも雨粒が漏れてくる。やれやれと2人で微笑んだ。

雨は止みそうにない、バユとの雑談時間になった。「アニメは見るか」「何で旅をしているんだ」「彼女はいるか」。「これから旅を続けるんだ」と話すと、彼は「どのくらいなんだ」と訊く。「1年ほどになると思う」と不確かにだが、私は言ってしまった。バユは「You are crazy」と目を丸くして反応する。日本の話をすると、彼は「日本は随分綺麗だろう」と尊敬の眼差しをむけてくれる。ジャカルタのタタも同じリアクションだった。「インドネシアではそうはいかないな」なんてバユは笑っている。雨の勢いは留まるどころか、より激しくなっていた。

雷の轟く音が遠くの方から聞こえてくる。

随分と振り続けた後で、スイッチを切ったように雨は上がって、バユは放っておいた仕事をしなきゃいけないと少しだけ慌てている。そろそろ出ようか。私はこれから中心地からずっと南へ下ったゴア・チェマラ・ビーチという場所に行くことを決めた。「そうだ。夜にU-17ワールドカップのインドネシア戦があるから、一緒に見ないか」と誘われる。近くにある彼の叔父の家で見る予定だと言う。「もちろん」と連絡先を交換して、じゃまたとお互いバイクに乗った。

ジャワ島の南の端に位置するビーチ、ゴアチェマラは、丘へ登って夕陽が見られる有名なスポットらしい。ここからは1時間以上かかる運転になるが、せっかく雨も上がったので見に行こう。雨を降らせて軽くなった灰色の雲が勢いよく西へと流れてゆく。近くのペトロステーションにはカッパを羽織って雨を凌いだ人々が列をなしていた。彼らに倣って係りにルピア紙幣を渡して、給油量を伝えれば勝手に給油してくれる。何となくで、ガソリンも入れることができ満足げな私。

東の大通りに出て、ひたすらに南へと降る。雨上がりの風は冷たく、雲間から出た陽の光が緑の田園を照らしいている。あまりにもうるうるしく元気が出る景色だったので、思わずバイクを停めて写真を撮った。ビーチを望む丘の方へ徐々に登りが増えてくる。身体を前傾にして、アクセルをひねる。少し上がったところで、ビーチがちらりと目に入った。微かに波の音も聞こえる。ニカっと笑顔が溢れた。

整備の行き届いていない細い土道を通り、砂利を敷いた駐車スペースにバイクを停めた。係の男に3000ルピアを「Makasih」と渡す。

すでに大きな波の音が聞こえる。階段を登ると、丘から昇る風が強く吹きつけた。ひらけた景色に言葉が出ない。遠くの地平線まで続く砂浜と巨大な波のうねり。懐かしい波の音と潮風。鼻から大きくこの海の匂いを吸い込んだ。ふと「本当にすごいな、、」と独り言が溢れた。

しばらくそのまま、広大な砂浜に上がる白波の動きを目で追って、何も考えることのない時間を過ごしていた。台北にもいた燕が軽快に飛んでいる。気がつけば、ジョグジャに来た時に感じていた寂しさや孤独感はどこかへ飛んでいって、これからのバユとの予定が楽しみになっていた。そういえば、今朝の不機嫌のおかげで、バユと出会えたんだ。今日1日がこうなるなんて誰が予想できただろう。

夕陽を見るために登った丘だったが、雨上がりの雲が覆い尽くした灰色の空を見ると、今日は望めそうにないだろう。17時になったところで、街へと帰ることにした。来た道を順序よく戻ってゆく、途中前を行く親子が西側を眺めて笑っているから、どうしたんだとつられて視線を向けると、大きなオレンジ色の夕陽が輝いている。思わず「おお、でかいぞ」と声が漏れた。

陽が沈んですぐに暗くなった道路には街灯が少なく、昼間よりも運転の気持ちを引き締める。多くのバイクがそれぞれの家路に向かっているのだろう、数々のヘッドライトの光が瞬いている。

2本のガジュマルが聳える広場に戻ってきた。路肩にバイクを停めて、バユからの連絡を確認する。彼の叔父の家はここからすぐ、門の空いた平屋の家に辿り着いた。バユは待ってましたと笑顔で迎え、彼の兄夫婦や叔父さん、叔母さんに紹介してくれる。皆握手と笑顔での挨拶だ。リビングに子供の描いた絵が飾られているのは、どこの国の家庭も変わらないらしい。お茶を出してくれたり、ケーキを出して食べろ食べろと迎えてくれる。私は「Makasih」「Makasih」とずっと感謝するしかなかった。

リビングにある50インチはありそうなテレビで、インドネシアvsパナマの試合をバユ、叔父さん、兄とソファに腰掛けて4人で観戦した。試合途中でも、コーヒーはいるかと気遣ってくれたり、ピーナッツなどのスナックも遠慮はするな、食べろ食べろと叔父さんが手でジェスチャーをする。

サッカーには感謝しないといけない。国籍関わらず、惜しいプレーには、いやいやとため息が出る、点を決めた時には、4人立ち上がって手を合わせて盛り上がった。サッカー観戦に言葉なんて要らないのだ。

帰ると、共有のリビングに1人アビーがテレビを見ていた。今日はどんな1日だったと彼に話すと、そんなことがあるんだと驚かれた。

「そう、そんなことが起こるんだよ。本当に面白いよね」

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